狂言面と能面の違い

「能楽」とは能・狂言の総称であり、能だけを差し示してはおらず、狂言面・能面は、共にその作者や素材、製法、表現など全く等しく、同じ系統の物であります。

仮面を用いる頻度は「能」程ではありませんが、「狂言」も現行曲の約30パーセントは仮面を用いますので、仮面劇と云って良いでしょう。

面の画像

では狂言面・能面の違いは何かと云うと、能は貴族社会をテーマにした・悲劇、狂言は庶民の日常をモチーフにした・喜劇で、自ずとその劇性がそれぞれ面の表情方向に影響を与えています。

狂言面の特徴は能面と等しく中間表情でありながら、その根底に滑稽諧謔と云った笑う心が投影されていなければならないのです。

一説によると能面打ちが仕事の間の息抜きに、ある気安さ、ゆとりをもって制作し、肩の凝りをほぐしたものが狂言面の最初だと云われていますが、ユーモアは方向を誤れば俗悪や野卑に転落し、芸術的価値を低下させる危険が多いのです。

一方品位にばかり拘泥すれば能面に転化してしまい、違いが見出せなくなります。

是は単に面の場合に限らず狂言の実技においても同様な事が云えるのでは無いでしょうか。

事実制作するのは能面よりむしろ狂言面の方が多分に難しく、名品と云われる作品も能面より極端に数が少ないのもその為ではないでしょうか。

豊かさやゆとり・ユーモアがあり、尚且つ品位を兼ね備える事は、万民が憧れる存在ではないでしょうか。

(大阪能の面研究会 顧問)
能楽師・和泉流狂言方  小笠原 匡